ステラクリマの匣庭ー貴方が読むまで、終わらない物語ー

――夜空を見上げた子どもが言った。

「ねえ、ママ。あの星、泣いてるよ」

母親は笑って首を横に振る。「あれはね、幸せな星よ。恋をした星のお話、知らない?」

子どもは不思議そうに瞬きをする。

「でも、あんなに、叫んでるのに?」

母親はもう聞いていない。

子どもの声だけが、静かな夜を切り裂いていく。

「誰か……助けてって、言ってるのに」

星は、今日も夜空に浮かんでいる。

けれどそれは、もう星ではない。
名を剥奪され、姿を歪められ、
その“心”だけが、檻の中で千年を越えて軋み続けている。

「私は……誰……?」

誰にも届かない声。誰にも届かない問い。

答える者はいない。
六人の星はとうに“神”になり、この世界の理に溶けた。

もう、誰も戻せない。

物語は終わった。
救いも、赦しも、終わった。

……でも、それでも。
その“星”は、今日も空の向こうで叫んでいる。

――『助けて』と。

なのに。

誰しもが、それを“美しい星座”だと思って、見上げている。

微笑んで、願い事をして。

少女の声がまた、微かに、空の奥で泣いた。

「お願い……誰か、間違いだと、伝えて」

……誰も、言わない。

そして夜が、更に深く落ちていく。