Grey Amber

わたしは冷たい海の中を歩き、だんだんとそれが深くなってくる。

すると、「ちょっと待って！！！」と後ろから声が聞こえ、わたしは振り向いた。

それと同時に腕を掴まれ、目の前にいる人物を見て、わたしは驚いた。

それは、さっき救急車を呼び、最後までわたしに付き添ってくれていた男性だったのだ。

「え、、、何で、、、」
「すいません、暗い顔をしていたので心配でついて来てしまいました。夜にこんな深いとこまで来て、危ないですよ！」

その男性はわたしの腕を引き、海の中からわたしを引っ張り出し、わたしは海水で湿った波打ち際に座り込んだ。

すると、何故か分からないが涙が溢れ出してきた。

そしてわたしが泣き出すと、その男性は自分が羽織っていたジャケットをわたしの肩に掛け、優しくわたしを包み込んでくれた。

「ツラかったですね、、、」

耳元に響くその男性の優しくも低い声にわたしは更に涙した。

"ツラかったですね"

たったその一言だが、わたしは嬉しかった。

その一言さえ、言ってくれる人が今までに居なかったからだ。

「えっと、あのぉ、お名前は？」

そう訊かれ、わたしは涙声で「片瀬、美桜です。」と答えた。

「美桜さん。俺は、弦巻海里といいます。それで、美桜さんは、、、一人暮らしですか？」
「、、、はい。」
「そうですか、、、このまま帰宅しても、一人で生活は厳しいですよね？ご実家を頼ったりは？」
「母とは、、、あまり上手くいってないので、頼ることは出来ません。」

わたしがそう答えると、弦巻さんは「そうなんですね、、、」と言いながら、困ったような表情を浮かべ、それから遠慮気味に「それなら、、、俺んち、来ます？」と言ったのだった。