Grey Amber


「藤井さん、そんな言い方はやめなさい。」

道重先生がそう注意してくれたが、わたしは「いえ、いいんです。実験体でも。」と言った。

「わたしみたいに線維筋痛症で苦しんでいる人の為になるなら、治験でも何でも受けます。だから、実験体だと言われても構いません。」

わたしがそう言うと、藤井さんと呼ばれる人は面白くなさそうな表情を浮かべ、それからは何も言わず、パソコンに向かい、何か打ち込みを始めた。

「弦巻くん、診断書と処方箋を出したから、あとは任せるよ。」

道重先生がそう言うと、コピー機から出てきた紙を手に取った弦巻さんは「はい、ありがとうございます。」と言った。

そのあと、研究室がある建物内にある調剤薬局へ行き、道重先生が処方してくれた薬をもらうと、その足でそのままわたしの職場へと向かった。

わたしを車に残し、弦巻さんは「ちょっと待っててください。」と診断書を持ってわたしの職場内に入って行った。

数分後、戻って来た弦巻さんは休職届をもらってきたらしく、記入して後日郵送すると伝えて来てくれたらしい。

その帰り、わたしは弦巻さんを「弦巻さん、海見に行きませんか?」と誘い、「身体の方は大丈夫ですか?今日は疲れたでしょう?」と心配してくれたが、わたしは「大丈夫です。」と答えた。

それから、わたしは弦巻さんにいつもわたしが行っていた海岸に連れて行ってもらい、海岸沿いに車を停め、波打ち際に置かれているブロックの上に座り、地平線を見つめた。

今日はいつもと違い、悲しい気持ちでの眺めではない。

やっと前に進めた喜びから眺める景色だ。