その後、8時半頃になると、弦巻さんは本当にわたしの職場に身内のフリをして電話をかけてくれた。
「あ、もしもし。片瀬美桜の兄です、妹が大変お世話になっております。実はですね、昨日妹が救急搬送されまして、今仕事が出来る状態にないんですよ。なので、申し訳ないのですが、一週間お休みをいただきたく、妹の代わりにお電話させていただいたのですが、場合によっては医師の判断で休職する可能性もありますので、その際はまたご連絡させていただきます。はい。ありがとうございます。それでは、失礼致します。」
そう言い、弦巻さんは電話を切ると、わたしに向けて親指を立てて見せた。
「どうでした?俺の兄っぷりは。」
「めちゃくちゃお兄ちゃんらしかったです。ありがとうございます。」
わたしがそう言いクスッと笑うと、弦巻さんはそんなわたしを見て、優しい表情を浮かべた。
「美桜さん、笑うようになりましたね。良かった。」
「えっ。」
「暗い表情ばかりだったので、心配でしたが、少しでも気持ちが解れているなら俺も嬉しいです。」
弦巻さんは、そんなことまで心配してくれてたんだ。
わたしは自覚していなかったが、確かに笑えるようになっている。
それは確実は弦巻さんのおかげだ。
わたしは、まだ昨日知り合ったばかりの弦巻さんの優しさと温かさに触れ、少しずつ気持ちが惹かれ始めていることに気付いた。
しかし、その気持ちは心の奥に仕舞い込んだまま。
だって、わたしの身体はこんな状態だし、迷惑しかかけてないんだから。



