友達の金魚を食べた。




「俺さ、昨日家族と祭りに行ってさ、金魚掬ったんだ!名前はオレンジ色だから『みかん』にしたんだ!」

 隼人の家に遊びに行くと、隼人は金魚鉢で泳ぐ一匹のオレンジ色の金魚に指差して自慢した。

「可愛いだろ!」

 そう言いながら、隼人は満面に微笑む。

「……そうだね、可愛いね」

 こんな魚、全然可愛くない。けど、嬉しそうな隼人の笑顔を壊したくないから、俺は可愛いと嘘を吐いた。



 隼人は毎日のように、金魚のことを自慢げに話した。学校にいる時も隼人の家に遊びに行った時も俺の家で遊んでいる時も、金魚のことばかり話した……嬉しそうに。
 俺のことより、金魚の方が大切なんだ。俺は誰よりも、隼人のことが大好きだし親友だって思ってる、のに。



「今日もこいつ可愛いだろ。俺ジュース持ってくるから、先に俺の部屋に行ってて」

 学校帰り、ゲームをしに隼人の家に来た。家に来る前から金魚の話ばっかりでうんざりしていた。

「……どこが可愛いんだか。ただの魚じゃん」
 
 ポツリと言って、俺は金魚鉢の中で泳ぐ魚を睨んだ。



「みかんがいなくなった!」

 ゲームをしていると、トイレから帰ってきた隼人が顔を真っ青にしながら言った。

「金魚が脱走なんてできないでしょ。ちゃんと見たの?」
「見たよ!けど……いないんだよ」

 魚が金魚鉢から居なくなった後、隼人と俺は隼人の家の中や庭などを探した。けれども、あの魚は見つからなかった。
 あの魚が居なくなって隼人は、わんわんと泣いていた。



 家に帰ると、俺はポケットからあの魚を─隼人が可愛がっていた金魚を取り出した。金魚鉢から掬って暫く経つから、てっきりもう死んでると思ってたけど……まだ、ピクピクと微かに動いていた。

「しぶといなぁ。まあ、今すぐ楽にしてあげるよ」

 そう言って俺は、台所に行った。母はいつも遅くまで仕事だから家に居ない。

「そろそろ、夕飯のしたくしなきゃ」

 俺は魚を水道で洗うと、まな板の上に置き、そして。

「……隼人が大事にしてた魚だからな。ちゃあんと味わって食べなきゃな」

 そう言って俺は、その魚を捌いた。魚の捌き方は分からないけど、適当に捌いた。

 そしてその日の夕食は、その魚を刺身で食べた。

 小さいから身も無いし、あまり美味しくなかった。

「不味かったけど、これで暫くしたら隼人はこの魚のことは言わなくなるよね。……隼人の友達は、俺だけで充分。ご馳走さまでした」

 俺は自分の腹を擦りながら、腹の中の魚に言うようにひとりごちた。