(『でも、子育てはひとりではできません。家族で、親戚で、地域の方々や行政、保育園・幼稚園と協力しなければ』)
時間は正午を過ぎ、太陽は真夏のように照りつけ、空気はじんわりと熱かった。
通い慣れた、だが、何度通っても見慣れない病院から駅までの途中の繁華街を、俺は小さなトワの右手を引き足早に通り過ぎる。
(トワ……
今のままで保育園なんか行けるのか? これから小学校へも行かなきゃいけないのに、
まだ、言葉もよくしゃべれない)

「かしわばあじさい!!」
スナックらしい店の軒先に咲いている白いふっくらとした矢印のような花を指さして、
トワがニッコリと笑う。
(トワに多くを望まないつもりだったのに……
俺、最近、ちょっと、いや、かなり彼が負担だ)

俺は24時間トワといっしょにいる。朝から晩まで。
俺は孤独主義ではないが、長らくひとり暮らしだったのもあって、
時々、痛烈にひとりになりたいと感じる時がある。

家族とは長らく連絡を取っていない。
友人もいることにはいるが、未婚だったり、既婚者でもまだ子供がいなかったりしてトワのことは話しづらかった。
「ふれ?」
トワが心配そうに俺を見上げる。俺の左手を握る熱いくらいの小さな手に、
ぎゅうっと力がこもった。
「ん? 何? トワ」

トワに心配をかけまいと作った笑顔。彼の丸い茶色の目がますますまん丸くなる。
俺は、今、どんな目をしていたのだろう -