なぜだろう。
小さなトワを見ていると、時々、
自分の小さい頃を思い出す。

「トワくん、今月もきみはとっても元気です!
これで検査は全部終わりです。お疲れ様!」
「ありがとうございます。土田先生。
ほら、トワも先生にありがとう、して」
「ふれ!」
「こらこら、ちがうちがう! ありがとう。先生にありがとうは?」
「ふれ! ふれ!!」

6月に入り、
梅雨のおとずれが間近なのか、朝、さっと雨が降り、日中は蒸し暑い日々が続いている。
庭の青梅はだいぶふくらんだ。そろそろ採り時だろう。
俺は、
小さなトワを連れ、街の大病院をおとずれていた。
かつて、ゴミ屋敷から救い出されたトワが入院していた病院。しかし、彼自身にはその記憶がまったくないようで安心した。

トワの担当医・小児科医の土田先生は、短く刈った黒髪、薄い色をした丸い目、白い肌にシャープなアゴを持つ細身の先生だが、たまに廊下で子どもたちを左右にぶらさげているところを見るに、その細身は鍛えていることの表れだった。
(俺もちょっと筋トレしようかな)
高校時代はバスケットボール部だった俺である。しかし、大学へ進学し、文学の道を志すようになってから、
運動とは自然と縁遠くなってしまった。
(まぁ、毎日、やんちゃなトワを追いかけているだけで、だいぶ運動にはなってるけど)

東京都内はずれの小さな一軒家に住む売れない小説家兼仏日翻訳家の俺・フォレ・27歳は、
現在、
トワと言う名のやんちゃな4歳児と同居中だ。