小さなトワのほこほこあたたかい手を引いて、空気がぬくぬくし小さく涼しい風が出てきた午後、近くの商店街へ買い物に行く。
俺は目に入るあれこれをトワに話し、彼は花の名前で答える。
はちきれんばかりのうれしそうな顔で。
「今日のお夕飯は何にしようか」
「くりすますろーず!!」
「マグロのステーキにしようか」
「しゃこばさぼてん!!」
親子ではない。
兄弟でも、友人でもない。
会話は成立しない。
それでも、
きみが俺にとって、かけがえのないひとであることにかわりはないよ。トワ。
八百屋で大きなキャベツとふぞろいのニンジン2本、たくさんのもやしを買い、そのあと魚屋に立ち寄った。
立派なマグロの赤身のさくがあり、刺身で食べたい気になる。
しかし、小さく、栄養失調で数ヶ月前まで入院していたトワに火を通していないものを食べさせるのはいかがなものか、と思案しているうちに、
小さなトワの姿がきれいに消えていた。
まるで、風にさらわれたように。
「トワ!!」
俺は買い物かごをほうり出して叫んだ。
喉が引きちぎれるほどに。
血相を変えてただ小さな彼の名前を叫ぶ俺の姿を見て、魚屋のかっぷくの良い老店主や店員、となりの和菓子屋のおかみさん、周囲の店からひとがわらわらと出てくる。
「どうしたの!?」
「うちの子がいなくなりました!!
うちの子が……うちの子が……」
唇を震わせてそう訴える俺を見て、和菓子屋のおかみさんが心底同情したような顔になった。
「いつも連れている丸い顔の小さい子よね?
息子さんなの?」
「……」
まつ毛にたっぷりと黒いマスカラを塗った目でそう聞かれ、俺は一瞬返事に詰まった。
トワは俺の息子ではない。兄弟でもない。
だが、
「大切なひとなんです!!」
俺がそう叫ぶと、魚屋の店主が、
「俺、駅前の交番へ行ってくる!!」
と、白衣のままで駆け出し、
「みんなで探しましょう!!」
と和菓子屋のおかみさんもそう言ってくれた。
俺は、小さなトワと来た道を、ていねいにゆっくりとたどる。
ごめん。
ごめん、トワ。
俺は目に入るあれこれをトワに話し、彼は花の名前で答える。
はちきれんばかりのうれしそうな顔で。
「今日のお夕飯は何にしようか」
「くりすますろーず!!」
「マグロのステーキにしようか」
「しゃこばさぼてん!!」
親子ではない。
兄弟でも、友人でもない。
会話は成立しない。
それでも、
きみが俺にとって、かけがえのないひとであることにかわりはないよ。トワ。
八百屋で大きなキャベツとふぞろいのニンジン2本、たくさんのもやしを買い、そのあと魚屋に立ち寄った。
立派なマグロの赤身のさくがあり、刺身で食べたい気になる。
しかし、小さく、栄養失調で数ヶ月前まで入院していたトワに火を通していないものを食べさせるのはいかがなものか、と思案しているうちに、
小さなトワの姿がきれいに消えていた。
まるで、風にさらわれたように。
「トワ!!」
俺は買い物かごをほうり出して叫んだ。
喉が引きちぎれるほどに。
血相を変えてただ小さな彼の名前を叫ぶ俺の姿を見て、魚屋のかっぷくの良い老店主や店員、となりの和菓子屋のおかみさん、周囲の店からひとがわらわらと出てくる。
「どうしたの!?」
「うちの子がいなくなりました!!
うちの子が……うちの子が……」
唇を震わせてそう訴える俺を見て、和菓子屋のおかみさんが心底同情したような顔になった。
「いつも連れている丸い顔の小さい子よね?
息子さんなの?」
「……」
まつ毛にたっぷりと黒いマスカラを塗った目でそう聞かれ、俺は一瞬返事に詰まった。
トワは俺の息子ではない。兄弟でもない。
だが、
「大切なひとなんです!!」
俺がそう叫ぶと、魚屋の店主が、
「俺、駅前の交番へ行ってくる!!」
と、白衣のままで駆け出し、
「みんなで探しましょう!!」
と和菓子屋のおかみさんもそう言ってくれた。
俺は、小さなトワと来た道を、ていねいにゆっくりとたどる。
ごめん。
ごめん、トワ。



