Beautiful Flowers

次の日曜日はさわやかな快晴だった。
そして、

「おっはよー、フォレ!!」
「おはよう、フォレくん」
インターネットで知り合った友人たちが、わざわざ遠方から遊びに来てくれた。

「おはようございます。ユウさん。
秋田からわざわざ済みません」
「何言っちゃってんの! 俺もさぁ、自分が保育士だっておまえに言い忘れてた!!
子どもがいるなんて知らなかったよ。なんで教えてくんなかったの!!」
「俺もユウさんが保育士だったなんて知りませんでした」
「俺はおまえがまだ高校生だって知らなかったよ、リーラ」
「ピ・チ・ピ・チ」
そう言っていたずらっぽく笑うリーラにユウさんがヘッドロックをかけている。
ちなみにリーラは千葉在住の現役高校生だ。俺たちはSNSで知り合った。

トワは俺の背中にかくれている。人見知りをしているのだ。
「トワ。
こちらの頭もじゃもじゃの小さいお兄さんはユウさん。
こっちのおっきくて顔の丸いお兄さんはリーラだよ」
「小さいは余計だ、フォレ!
よろしくね、トワくん! 今日は俺たちといっぱい遊ぼうね!」
「トワくん、はじめまして。
今日はね、トワくんにアイドルさんの魅力をたっぷり教えちゃうよ!」

「こらこら、
うちの子をオタクに洗脳するな」
俺がふたりの言葉に苦笑している間、トワはずっと俺の腰にしがみついていたが、
ふと、何かを見つけたのか、靴を履くのもそこそこにパタパタと急いで家を出ていった。
「トワ? どうした? 何か見つけたか?」

「ふれ、うめ!!」
地面に落ちた青梅をひろい上げ、トワがニコオッと笑う。
真っ白な前歯がちょっと生えてきた愛らしい笑顔だった。
青紫色のぼんぼりみたいなアジサイの下で、いつもの黒猫がくああ、と、赤い口を開けて大あくびをしていた。

「あぁ、そうだ。
梅を採らなきゃ」
「手伝うよ、フォレ!」
「俺、梅採ったことないです! 俺も手伝います!」
「ありがとう!!」

と、
小さなトワがちょこちょこ、と戻ってきて、
右手にひろった梅をぎゅうっと握ったまま、
「ふれ!!」
と、ひときわ大きく叫んで、ユウさんとリーラに深々と頭を下げた。

「トワ?」
俺がぽかんとしていると、
ユウさんがトワの頭をぐりぐりと撫でる。
「トワくん、えらいねぇ。ちゃんとごあいさつできるんだ?」
「ふれ!!」
「ご、ごあいさつ?」

俺がさらにぽかん、とした顔をしていると、リーラが俺を振り向いて、楽しそうにニコッと笑った。

「トワくんにとってフォレくんの名前は、
あらゆるすてきな感情を表現する『特別な言葉』なんだね」

「え」
「よーし、トワくん!
どっちが多く梅を採れるか俺と競争だぁ!!」
「? あるすとろめりあ?」
「よし、俺も参加! 俺が一番になったら、トワくんにアイドルさんをプレゼンしても良いよね!」
「ふれ!!」
(『特別な言葉』)

胸が熱くなって、やわらかくなって、くすぐったくて、いっぱいで、
俺は、どんな顔をして良いのかわからずにいた。
「ふれ!!」
でも、きみが、はちきれんばかりの笑顔で俺を呼んでくれるから、
「今、脚立を出すよ!」
俺も、まっさらな笑顔で、きみにほほ笑み返す。
俺の新しい笑顔は、いつもきみから生まれるんだ。トワ。