「おはよう、トワ」
「うめっ!!」
東京都内はずれの小さな一軒家に住む売れない小説家兼仏日翻訳家の俺・フォレ・27歳は、
現在、
「トワ」と言う名のやんちゃな4歳児と同居中だ。
今日は朝から空が透き通って明るく、風もなく涼しい。これから初夏なみに気温が上がるのだと言う。
トワは、ネコのひたいほどの庭にある横幅の広い梅の木を見上げ、まだ直径1センチほどのラグビーボール型の緑色の梅の実を、ひとつひとつ短く太い指で差しては、
「うめ!!」と言って俺を振り返り、ニカッと笑うのだった。
「梅の実がもう少し大きくなったら、
ふたりで採ろうな」
「ばら!!」
「梅シロップを作るんだ。おいしいぞ」
「ひやしんす!!」
この家に来た当初は、小動物のようにおびえて何も話さなかったトワだったが、
最近になってやっと、花の名前だけ言うようになった。
俺が毎日、庭に咲く花をひとつひとつ指差して、その名前を教えつづけていたからだろう。
俺は、身長が173センチメートルで痩せ型で手足が細く長く、
ふわふわの短い黒髪と同じ色のぱっちりとした目、
高く大きな鼻と、ぽってりとした紅い唇を持っていて、
トワは浅黒い丸い顔とふくよかな身体、
笑うとなくなる愛嬌のある細い目をしていた。
このふたりの生活に時折入り込むのは小さな黒猫だった。
右耳の上が少し欠けていて痛々しいが、その子猫はいつも朝、うちの庭へやってきて、
のんびりとひなたぼっこをするのだった。
トワは、育児放棄された子どもだった。
遠い親戚(しかし血の繋がりはない)に当たる俺と児童相談所のスタッフたちが彼の住んでいた木造の1Kアパートに駆けつけた時、
彼はゴミの山の中で、マッチ棒のように痩せほそって倒れていた。
父親はおらず、母親は蒸発し、ビニール袋やソースのついた小袋みたいなゴミを食べて何とか命をつないでいたらしい。
胸からこみ上げてくるものはあるのに、目からも口からも何も出てこなかった。
病院から退院した彼を養護施設に預ける選択肢もあったが、
親戚間で何度も何度も話し合いを重ね、最終的に、
結婚もしておらず、恋人もいない俺が引き取ることになった。
「うめっ!!」
東京都内はずれの小さな一軒家に住む売れない小説家兼仏日翻訳家の俺・フォレ・27歳は、
現在、
「トワ」と言う名のやんちゃな4歳児と同居中だ。
今日は朝から空が透き通って明るく、風もなく涼しい。これから初夏なみに気温が上がるのだと言う。
トワは、ネコのひたいほどの庭にある横幅の広い梅の木を見上げ、まだ直径1センチほどのラグビーボール型の緑色の梅の実を、ひとつひとつ短く太い指で差しては、
「うめ!!」と言って俺を振り返り、ニカッと笑うのだった。
「梅の実がもう少し大きくなったら、
ふたりで採ろうな」
「ばら!!」
「梅シロップを作るんだ。おいしいぞ」
「ひやしんす!!」
この家に来た当初は、小動物のようにおびえて何も話さなかったトワだったが、
最近になってやっと、花の名前だけ言うようになった。
俺が毎日、庭に咲く花をひとつひとつ指差して、その名前を教えつづけていたからだろう。
俺は、身長が173センチメートルで痩せ型で手足が細く長く、
ふわふわの短い黒髪と同じ色のぱっちりとした目、
高く大きな鼻と、ぽってりとした紅い唇を持っていて、
トワは浅黒い丸い顔とふくよかな身体、
笑うとなくなる愛嬌のある細い目をしていた。
このふたりの生活に時折入り込むのは小さな黒猫だった。
右耳の上が少し欠けていて痛々しいが、その子猫はいつも朝、うちの庭へやってきて、
のんびりとひなたぼっこをするのだった。
トワは、育児放棄された子どもだった。
遠い親戚(しかし血の繋がりはない)に当たる俺と児童相談所のスタッフたちが彼の住んでいた木造の1Kアパートに駆けつけた時、
彼はゴミの山の中で、マッチ棒のように痩せほそって倒れていた。
父親はおらず、母親は蒸発し、ビニール袋やソースのついた小袋みたいなゴミを食べて何とか命をつないでいたらしい。
胸からこみ上げてくるものはあるのに、目からも口からも何も出てこなかった。
病院から退院した彼を養護施設に預ける選択肢もあったが、
親戚間で何度も何度も話し合いを重ね、最終的に、
結婚もしておらず、恋人もいない俺が引き取ることになった。



