氷壁エリートの夜の顔

* * *

 その週の木曜と金曜、私は富山県への出張を控えていた。古美多のシフトは事前に調整済みだ。

 出張中は、クライアント企業がランチを用意してくれることが多い。地元の食材を使った、普段の私には手が出ないような料理──私はそれをご褒美と呼んで、密かに出張を楽しみにしていた。

 今回も、当初は私ひとりで行く予定だった。
 地方と都市部で分断されたブランドイメージの補正、その実態把握とインサイト抽出、そして報告用の素材収集。やるべきことはわかっているし、これまで何度もこなしてきた。私ひとりで、十分に成果を上げられるはずだった。

──ところが。

 その日の午後、氷壁モードの結城さんが静かに現れ、落ち着いた声で告げた。

「今週の出張ですが、クライアントからの要望で変更がありました。ブランド再構築を本社主導で進めるリスクが懸念されており、リードアナリストにも現地の受容実態を把握してもらいたいとのことです」