ふと目をやると、結城さんの顔がすぐ近くにあった。冷たく見えたその目が、今はとても温かくて……さっきから胸が落ち着かない。これはきっと、熱のせいだけじゃない。

 結城さんの手がそっと伸びて、私の額に触れた。驚いて目をぎゅっと閉じた瞬間、大きな掌の感触が伝わる。

「熱……少し下がってきたみたいだね」

 その声に、私はそっと目を開ける。

「お粥とリンゴ、それにスポーツドリンクもあるから、お腹が空いたら食べて」

 彼はそう言って、立ち上がった。

「じゃあ、俺はこれで」

 もう帰っちゃうんだ……。ふとよぎった寂しさに、自分でも戸惑う。
 私は鍵をかけるため、ゆっくりと立ち上がり、玄関まで見送りに行く。

「──ありがとう、結城さん」

 そう伝えると、彼は一瞬目を揺らし、少しだけ表情を引き締めてから口を開いた。

「……仕事に差し障りがあると、困りますからね」

 そう言いながら、彼は一瞬だけ私から視線を外す。
 声には確かなぬくもりがあって、どこか少しだけ、揺れている気がした。

──すがっちゃ、だめだ。
 玄関の鍵を閉めたあと、私は力なく両手を握りしめた。