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 彼がアメリカ本社から戻ってきたとき、社内はちょっとしたフィーバー状態だった。

 若くして本社に抜擢され、実績も文句なし。端正な顔立ちと洗練された身のこなし、ハイブランドをさらりと着こなすスタイル、そして独身──すべてが完璧なエリート、それが結城颯真……だった。

──だった、という過去形になるまでに、一週間かからなかった。

 徹底した合理主義者。
 仕事はスマートで完璧だけど、必要以上の会話ゼロで笑顔もゼロ。
 交流を目的としたコミュニケーションは皆無。
 話をしてもまるで温度が感じられない、というか、体感温度でいうと氷点下だ。
 当然、社内の誰もが、彼との接触をできるだけ避けるようになった。

 だけど……私は、人の噂は当てにならないことを知っている。
 だから最初は、偏見を持たずに接しようと決めていた。
 オフィス用の笑顔を常時装備して、できるだけフラットに──

「アメリカの朝食って、やっぱりボリュームがすごいんですか? 映画とか見ていると、いつも美味しそうで──」

「……それは、業務に関係がありますか?」