* * *
彼がアメリカ本社から戻ってきたとき、社内はちょっとしたフィーバー状態だった。
若くして本社に抜擢され、実績も文句なし。端正な顔立ちと洗練された身のこなし、ハイブランドをさらりと着こなすスタイル、そして独身──すべてが完璧なエリート、それが結城颯真……だった。
──だった、という過去形になるまでに、一週間かからなかった。
徹底した合理主義者。
仕事はスマートで完璧だけど、必要以上の会話ゼロで笑顔もゼロ。
交流を目的としたコミュニケーションは皆無。
話をしてもまるで温度が感じられない、というか、体感温度でいうと氷点下だ。
当然、社内の誰もが、彼との接触をできるだけ避けるようになった。
だけど……私は、人の噂は当てにならないことを知っている。
だから最初は、偏見を持たずに接しようと決めていた。
オフィス用の笑顔を常時装備して、できるだけフラットに──
「アメリカの朝食って、やっぱりボリュームがすごいんですか? 映画とか見ていると、いつも美味しそうで──」
「……それは、業務に関係がありますか?」
彼がアメリカ本社から戻ってきたとき、社内はちょっとしたフィーバー状態だった。
若くして本社に抜擢され、実績も文句なし。端正な顔立ちと洗練された身のこなし、ハイブランドをさらりと着こなすスタイル、そして独身──すべてが完璧なエリート、それが結城颯真……だった。
──だった、という過去形になるまでに、一週間かからなかった。
徹底した合理主義者。
仕事はスマートで完璧だけど、必要以上の会話ゼロで笑顔もゼロ。
交流を目的としたコミュニケーションは皆無。
話をしてもまるで温度が感じられない、というか、体感温度でいうと氷点下だ。
当然、社内の誰もが、彼との接触をできるだけ避けるようになった。
だけど……私は、人の噂は当てにならないことを知っている。
だから最初は、偏見を持たずに接しようと決めていた。
オフィス用の笑顔を常時装備して、できるだけフラットに──
「アメリカの朝食って、やっぱりボリュームがすごいんですか? 映画とか見ていると、いつも美味しそうで──」
「……それは、業務に関係がありますか?」
