氷壁エリートの夜の顔

「またむせたら、全部こぼすよ。はい」

　諦めて、私は小さく口を開ける。スプーンが差し出され、温かなお粥がそっと舌に乗った。

　心臓がぎゅっとして、少しだけ息苦しくなる。風邪のせいだけではない熱が、心にじんわりと染み込んでいくのがわかった。

「そういえば、どうしてうちのアパートの前にいたの？」

　気になっていたことを尋ねると、彼は少しだけ目を逸らして、照れたように言った。

「さっき、たまたま古美多の前を通ったら──京花さんが暖簾を下ろしてたんだ。君が風邪をひいて、かなりしんどそうだって何度も言うから……様子、見に来てみたんだ。念のため、お粥とか持って」

　私は驚いて、動きを止めた。

「──わざわざ、来てくれたの？」

　彼はさらに顔を赤らめ、眉間にしわを寄せて視線を逸らす。

　その顔が、少しだけ不器用そうで、可愛くて、胸の奥があたたかくなる。
　彼は何かをごまかすように、「はい、冷めないうちに」と言って、またスプーンを差し出した。