氷壁エリートの夜の顔

「まだ起きなくていいから。お粥、食べられそう?」

 私は「たぶん……」とだけ答えた。体の感覚がぼやけていて、自分が空腹なのかどうかさえ、よくわからない。

 ぼんやりとした意識の中で、結城さんの姿だけが、どういうわけか、とてもはっきり感じられた。
 夢か現実かはわからない──けれど、彼がそこにいるだけで、少しだけ呼吸が楽になった。

「とりあえずこれ、レトルトだけど、卵粥。冷蔵庫のネギと卵、借りたから」

 結城さんはそう言いながら、器に入ったお粥を手渡してくれた。
 お盆の上には、小さくカットされたリンゴも並んでいる。

「ありがとう……」
 湯気と一緒に立ちのぼる香りに、自然と食欲が湧いてきた。
 スプーンが上手く持てなくて、手の力が抜けるくらいお腹が空いていたことに、ようやく気づく。

 ひと口すくって食べてみる。だけど、すぐに咳き込んでしまい、膝の上の器が揺れた。

 結城さんは黙って背中をさすり、私の手から器を引き取る。そして、お粥をほんの少しだけすくって、私の前に差し出した。

「はい、口開けて」

 思わず手を上げて制止する。

「だ、大丈夫、自分で食べられるから……」