氷壁エリートの夜の顔

 途中の薬局で処方薬を受け取る。待っている間にもどんどん悪寒が強くなり、薬剤師さんの説明がうまく頭に入ってこなくなる。

「……すみません、薬、ここで飲んでもいいですか?」

 尋ねると、お湯を用意してくれた。その温かさに救われる思いで、私は薬を流し込んだ。

 薬局を出て、また歩き出す。
 さっきよりも熱が上がっている。頭の奥でズキンズキンと脈打つような痛みが続く。

 ようやくアパートにたどり着き、階段を見上げた。
 普段なら何気なく上っている3階までの階段が、今日はなぜか遥か遠くに感じられる。
 この間、雑誌で見かけたメキシコの階段ピラミッドを思い出し、「はは」と乾いた笑いがこぼれた。昔から、限界が近づくと、なぜか笑ってしまう。

 3階まで──上らないと。

 でも、病院の往復で体力は限界に近い。壁に手をつこうとした拍子に、そのまま力が抜けてしゃがみこんでしまった。
──これは……やばい、本気で動けないかもしれない。

 そのとき、「大丈夫?」という声とともに、肩にそっと手が添えられた。

 視界が揺れるなか、顔を上げると──そこにいたのは、結城さんだった。