氷壁エリートの夜の顔

 その後、定食の注文が立て込み、一時的に店内が慌ただしくなった。私がすべてのドリンクを出し終え、ようやくカウンターに戻ったときには、結城さんはもう帰った後だった。

 他の常連さんと楽しげに話していた祐介くんが、私を待っていたかのように、小声で話しかけてくる。

「咲さん、さっきね、結城さんに聞かれたよ。すっごく言いにくそうにさ──『咲さんの恋人って、まさか祐介くんじゃないよね?』って」

 あまりにも突拍子もない内容に、私は思わず聞き返した。

「……はい?」

「ほら、さっき咲さんが俺にくれたじゃん? 可愛くラッピングされたメッセージカード付きのアレ。それが、思いっきり誤解されてたみたいでさ」

「あれで? ……祐介くん、ちゃんと説明してくれたよね? あれは、祐介くんのお姉ちゃんに試食してもらうためのコーヒー柿ようかんの試作品だって」

 祐介くんは親指を立ててにっこり笑う。

「もちろん! うちの姉ちゃん、スパイスを愛するマッドサイエンティストだから、商品化できるか意見をもらってるって伝えたよ。ほら、メッセージカードも見せたし」