氷壁エリートの夜の顔

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 土曜の夜、古美多に一番乗りしたのは、結城さんではなく祐介くんだった。

 いつもの席に腰を下ろし、「季節のお品書き」から何品かとビール、それから柿ようかんの「真ん中らへん」を注文する。少し遅れてきても「端っこ」が残っているのは、常連さん同士のさりげない思いやりのおかげだ。

「あ、祐介くん、この前話してたやつ、割とよくできたんだけど、またお願いしてもいい?」

 カウンター越しに声をかけると、祐介くんは顔を上げてにっこり笑う。

「お、ついに完成? いいよ、もちろん預かるよ!」

 可愛くラッピングした小さな包みとメッセージカードを、祐介くんに手渡す。その瞬間、すっと視界の端に影が差した。
 見ると、結城さんがすぐ横に立っていた。

 彼の視線は、祐介くんに渡そうとしていた包みに注がれ、それからほんの一瞬だけ、私の顔を見た。
 何かを問いかけるような目に、どうしてか、息をするタイミングがわからなくなった。

「颯真くんジャマイカ! また会えて嬉しいよ!」

 祐介くんが明るく声をかける。結城さんはいつもよりほんの少し固い笑顔を浮かべながら、「毎週ここで会ってるじゃないか」と返した。