氷壁エリートの夜の顔

「仕事はできるかもしれないけどさ、なんか余裕ぶってる感じがたまにイラッとする」

「基本、上から目線じゃない? 付き合ったら、全部仕切られそう」

 聞き流すつもりだったけれど──もう限界だった。
 私は椅子を少し引いて、振り返りながら口を開いた。

「そんなことないと思うよ。確かに、たまに難攻不落の氷の壁みたいなのは見えるけど、仕事中は、必要なことを最短距離で伝えてるだけだし……」

 感情が出過ぎないように意識して、私は声のトーンを落とした。

「それに、結城さん、たぶんすごく周りを見て、さりげなくフォローしてくれる、とても優しい人だと思う。……少なくとも、私はそう感じてる」

 そこまで言うと、後輩たちが一斉に引きつった表情でこちらを見てきた。
 あれ、そんなに変なこと言ったかな……?
 そう思った瞬間、彼女たちの視線が、私の背後──それも、やけに高い位置を見ているのに気づく。

 恐る恐る振り返ると──
 結城さんが、立っていた。

 一瞬、全員が固まった。私も同じだった。

「お、結城! おつかれさん」

 八木さんが、何事もなかったかのように結城さんに声をかける。
 結城さんは軽く会釈して、カプチーノを手に、ラウンジを後にした。