間取りは、リビングにベッドルーム。年季の入った建物の割に、部屋は意外と広く、窓が大きいため光と風がよく通る。
 フローリングの床に最小限の家具が置かれ、飾りもほとんどない。その中で、部屋の中央に置かれたローテーブルだけが、ぽつんと存在感を放っていた。

「ミニマリストみたいだね」

 思わず出た言葉に、彼女は小さく笑う。

「欲しいもの、あまりなくて」

 それは、何かを諦めることに慣れている人の目だった。
 けれどその奥には、不思議な満足感と、静かな誇りがにじんでいる。
 誰かのために、自分の選択を迷わず貫ける人間──その静かな強さと優しさが、ただまっすぐに伝わってきた。

──誰かに会いにいくために、自分のことは後回しにしているのか。

 その「誰か」が自分じゃないという事実に、少しだけ胸がざらついた。
 けれど──それを口にする資格なんて俺にはないことも、わかっていた。