行きたい、と思った。
 彼女の持つ、あの空気の中に身を置いてみたい──そんな願いがふいに湧き上がったことに、戸惑いながらも抗えなかった。

 家族の集まりに、職場の人間が加わるのは、あまり歓迎されるものではないと知っている。それでも、双子のまっすぐな誘いには打算がなく、何より──
 彼女と過ごしたいという思いが、確かに自分の中にあった。

「今、用事が終わったところなんです。行っても、いいですか?」

 彼女の頬が、ほんの一瞬だけ嬉しそうに緩んだ。
 それが見間違いでなければいいと思いながら、俺の口元にも自然と笑みが浮かんだ。



「私のアパート、狭いから、あまり快適じゃないかもしれませんが」

 そう言った彼女の声には、どこか申し訳なさがにじんでいた。
 そして、それは謙遜ではなく、事実なのだとすぐにわかった。

 会社の給与水準は悪くないし、彼女ほどの実力者なら評価もされているはずだ。
 にもかかわらず、彼女が暮らすのは古びた低層マンションだった。