氷壁エリートの夜の顔

 結果的にその判断は裏目に出た。彼女は別の女性メンバーに嫉妬し、資料を削除したり、俺との交際を吹聴したりして現場を混乱させた。プロジェクトは形にはなったが、当初目指していた成果には到底及ばなかった。

 あの一件で、俺は心に決めた。
 感情は仕事に持ち込まない。
 それが、自分とチームを守るためのルールになった。

 それなのに──と、小さなため息が漏れる。また同じような人間と組むのかと思うと、少しだけ気が重くなった。
 けれど、課長は「仕事はできる」と言っていた。まずは、それを信じてみるしかない。

* * *

 実際に会った彼女は、想像よりずっと自然体だった。

「今回の案件、桜さんと組むことになりました。結城颯真です。よろしくお願いします」

 名乗ると、彼女はどこか整えられた印象の笑顔で、丁寧に頭を下げた。
 いかにも仕事用に最適化された表情──それはきっと、多くの場面で通用する、彼女の武装なのだろう。

「桜咲です。よろしくお願いします……覚えやすい名前だねって、よく言われます」