「あの人、地味だけど、よく見ると美人だよね。落ち着いてるし、モテるのも納得。でも彼氏に夢中なんだってね」

「本人はほとんど話さないけど、かなりの遠距離らしいよ。海外赴任中のエリートって噂」

「えぇ、意外。節約ばっかしてるって感じじゃん? うちの会社、そんなに給料悪くないのに」

「それがさ」声をひそめながらも、どこか嘲笑めいた響きが混じる。
「旅費も滞在費も、全部彼女が出してるって。──つまり、貢いでるらしいよ」

「マジで? 見た目クールなのに、恋には盲目タイプなんだ」

 その言葉に、俺は少し眉をひそめる。
──恋愛体質か。いちばん距離を取りたいタイプだ。

 3年前、初めて任された大型プロジェクトで、チームメンバーのひとりでもある広報部の女性担当者が、業務以上の感情をこちらに向けていることに気づいた。
 けれど当時の俺には、それをどう扱えばいいのか分からなかった。
 下手に線引きすれば関係がこじれる。何より、仕事に集中してもらうには、下手に波風を立てない方がいい──そう考えていた。