「そろそろやっちゃいますか」

 柚月と律希が慣れた様子で立ち上がり、洗い物を始める。
 手伝おうとした結城さんを、私は止めた。

「座っててください。あの子たち、いつもやってますから」

「いい子たちですね」

 そう言って、彼は私の隣に座る。
 少しの沈黙のあと、彼は静かに言った。

「……ふたりには、恋人がいることは話してないんですね」

 さっき律希が「年齢が彼氏いない歴」と言ったのを、彼は覚えていたのだ。

 胸が少しだけ締め付けられる。

──この人を知れば知るほど、惹かれてしまう。

 でも、今の私には、恋よりも先に守りたいものがある。
 だから──誰かを好きになるなんて、やっぱり少し、贅沢すぎる。

「そのうち、紹介する予定なんです」

 そう答えると、彼は少しだけ目を細めた。

「……遠距離ですしね」

 私の嘘を信じて微笑んだその横顔が、どうしようもなく遠く見えた。