「……って、イケメンのとこ、完全スルーですか?」

 杏奈ちゃんが口をとがらせる。私はちょっと笑って肩をすくめた。

「顔で仕事するわけじゃないしね。むしろ、変に騒がれて気の毒かも」

「さすがです、咲さんには長年お付き合いしてる素敵な彼氏がいますもんね。いいなぁ」

 私は笑顔で相槌を打ち、そのまま席に戻ろうとした──そのとき、課長の神崎さんに呼び止められた。

「桜くん。次のブランド再構築プロジェクトだけど、君にはサブで入ってもらうことになったよ」

 私は手慣れた調子で、感じのいい笑みを浮かべた。

「わかりました。メインは、どなたですか?」

「それはね……」と、神崎さんは視線をオフィスの入り口へと向け、ふいに手を上げた。
「あ、来た来た、結城くん、こっち」

 その瞬間、オフィスの空気がわずかに張り詰めた。

 スラリとした長身の男性が、迷いのない足取りでこちらへと歩いてくる。
 ついさっきまでのざわめきが、嘘のように消えていた。代わりに、すべての視線がその人に吸い寄せられていく。