ポップコーンの袋を取り出しながら、美玲がふと言った。
 封を切ると、濃厚なバターの香りがふわっと広がる。差し出された袋に手を伸ばしながら、私は尋ねた。

「変わった?」

「前はさ、冷たくて近寄りがたい氷のナイフみたいな感じだったけど……最近ちょっと柔らかくなってきたっていうか。女子たちが『氷河期が終わった! 我に光を! 春の結城まつり開催だー!』って騒いでたよ」

 その言葉に、手が一瞬止まる。

「……そうなんだ」

「え、咲は気づいてなかったの? イケメンよりマッチョ派な私でさえ気づいたのに。あの結城さん、完全にモテ期突入です」

 胸の奥に、少しだけ苦いものが広がる。

「咲のこともさ、ちょっと前までは『人身御供』扱いだったのに、最近じゃ『咲さん、いいなぁ』って、結城さん狙いの子たちに羨ましがられてるよ」

「……どうりで、最近誰もお菓子くれないと思った」

 そう言って笑ってみせたけど、いつものようには、うまく笑えなかった。