「ち、違います! この間の、古美多のバイト代です。ラブレターじゃありません!」

 あてて声を上げると、彼は一瞬きょとんとした顔になり──みるみるうちに耳まで真っ赤になった。

 私から目を逸らし、口元を隠すようにして俯く。その仕草が妙にかわいくて、思わず私も頬が熱くなる。

「いくら私でも、ラブレターを茶封筒で渡したりしませんよ」

 少し照れながら、私はそっと彼の手に封筒を渡した。

「本当にありがとうございました。本当は古美多でお渡ししようかと思ったんですが、今週ちょっと用事があって、お休みをいただいてるんです」

 彼は静かに頷き、封筒を見つめる。そして、ふいにそれを私に差し戻してきた。

「これ、少しですが──旅費の足しにしてください」

「旅費?」

 その言葉に、私は驚いて彼を見つめた。
 彼はほんの少しだけ目を細めて、数週間前の私だったら気づかなかったような、かすかな微笑みを浮かべた。

「恋人に会いにいく旅費を、貯めているんでしょう?」

 優しい気遣いのはずなのに、その言葉は、思いのほか深く胸に刺さった。

──彼氏なんて、本当はどこにもいないのに。