私はそう答えた。よく使う言葉だけど、口にするたび、いつもちょっとだけ自分に棘が刺さる。

 短い沈黙のあと、彼はふと私に視線を戻して、話題を変えるように言った。

「ストウブ料理、僕も好きです」

 その言葉に、私も思わず顔を上げる。

「京花さんが、ストウブ鍋を使ったメニューを作りたいって言ってました。伝えておきますね」

「はい、よろしくお願いします」

 結城さんは、まるでクライアントへの確認事項を託すような、淡々とした口調でそう返した。
 でもその直後、少しだけ声を和らげて付け加える。

「楽しみにしています」

 昨日感じた静かな熱が、ふたたび胸で疼いた。
 私はそれをごまかすように、お弁当箱のフタを閉じ、立ち上がる。

「じゃあ、私も戻ります。午後の会議、がんばりましょうね」

「はい……あなたも」

 結城さんが立ち去ったあと、私はもう一度空を見上げた。
 その青さが──ほんの少しだけ、違って見えた気がした。