氷壁エリートの夜の顔

* * *

「咲、あんたまた彼氏いるって言ったの?」

 オフィスラウンジでミルクたっぷりのラテを飲みながら、高橋(たかはし)美玲(みれい)が呆れたように笑う。
 彼女は会社の同期であって親友、そして、私のささやかな秘密を知る数少ないうちのひとりだ。

「あんたって磨けば可愛いのに、いつも地味な格好してるし……そのうちバレるよ。妄想彼氏だって」

「妄想じゃなくて、架空だから。ちゃんと設定もあるんだよ? 長野県出身、28歳、好きな食べ物はりんご」

「うわぁ、設定とか言い出したよ……。前より拗らせてるじゃん。アップデートされてるのが逆に怖いね」

 私は苦笑しつつ、エスプレッソマシンの「ブラック・ストロング」のボタンを押す。ついでに、横の棚からグラノーラバーを手に取った。
 ありがたや、外資のフリースナック制度。これ一本あれば、会社が終わってからの「夜の部」も乗り切れる。

「でもさ、咲って本当に何でもひとりで完結しちゃうよね。強いっていうか……もうちょっと人に頼ってもいいのに」

「誰かに頼って負担をかけるくらいなら、最初から自分で動いた方が早いし、確実だし……それに、菓子折りも用意しなくて済む」

 美玲は肩をすくめる。