氷壁エリートの夜の顔

「……突然すぎない?」

 そう返した声は、自分でもわかるくらい震えていた。

「うん。突然かもしれないけど──ずっと言いたかった」

 そう言って、彼が優しく私を引き寄せた。
 その体温に包まれた瞬間、冷たい空気も、不安も、少しずつ溶けていくのがわかる。

「咲がいいなら、いつでも鍵、渡すよ」

 そう囁いて、彼の指先が私の頬に触れる。
 顔が近づき──唇が、柔らかく重なる。

 あたたかくて、静かで、少しだけ切なくて。
 私の中に残っていた迷いや寂しさを、すべて包み込むような、深く優しいキスだった。

 彼の腕の中で、私はそっと目を閉じる。

「──毎日、あなたに『ただいま』と『おかえり』が言えるね」

 唇が離れてからそう言うと、彼は目を細めて、どこまでも優しい笑みを浮かべた。
 心ごと差し出すような、あたたかい光のような笑顔だった。

 ──氷の壁の向こう側にいたのは、こんなにも、ぬくもりに満ちた人だった。

 私はそっと背伸びをして、もう一度、彼の唇にキスをした。