柿ようかんに満遍なく唐辛子を振りかけながら言っているのは──香坂絢音さんだった。
「っていうか、柿ようかん今日で最後って本気? 私が最初に来たときに言いなさいよ、こんな美味しいもの隠してたなんて!」
「絢音さん、よく考えてください。あの状況で柿ようかんすすめる人、普通いませんって」
私は苦笑しながら返す。
東條氏との対峙から少しして、彼女はまたひとりで古美多にやってきた。そして、「この間のお通しちょうだい」と注文した。
もし、あのとき彼女が颯真さんにすべてを伝えてくれていなければ──私はきっと、勇気を出せなかった。
だから、彼女にお礼を言おうとした。けれど彼女は、鼻で笑ってこう言ったのだ。
「無粋ね。お礼を言うなら、おすすめの一つでも出しなさい」
そのとき、サービスで出したのが──柿ようかんだった。
以来、彼女は幾度となくこの店を訪れ、そのたびに柿ようかんを欠かさず注文している。
「七味唐辛子柿ようかん⁉︎ 絢音さん、攻めますね。それに最初はグラスだったのに、今やジョッキでおかわりしてるし」
すっかり顔馴染みになった祐介くんが、笑いながら言う。
「っていうか、柿ようかん今日で最後って本気? 私が最初に来たときに言いなさいよ、こんな美味しいもの隠してたなんて!」
「絢音さん、よく考えてください。あの状況で柿ようかんすすめる人、普通いませんって」
私は苦笑しながら返す。
東條氏との対峙から少しして、彼女はまたひとりで古美多にやってきた。そして、「この間のお通しちょうだい」と注文した。
もし、あのとき彼女が颯真さんにすべてを伝えてくれていなければ──私はきっと、勇気を出せなかった。
だから、彼女にお礼を言おうとした。けれど彼女は、鼻で笑ってこう言ったのだ。
「無粋ね。お礼を言うなら、おすすめの一つでも出しなさい」
そのとき、サービスで出したのが──柿ようかんだった。
以来、彼女は幾度となくこの店を訪れ、そのたびに柿ようかんを欠かさず注文している。
「七味唐辛子柿ようかん⁉︎ 絢音さん、攻めますね。それに最初はグラスだったのに、今やジョッキでおかわりしてるし」
すっかり顔馴染みになった祐介くんが、笑いながら言う。
