その言葉に根負けした。というか、ラウンジ中から注がれる視線に、もう耐えられなかった。
「……まだ手をつけてないから、どうぞ」
そう言った瞬間、颯真さんが慌てて遮った。
「いや、俺もまだ箸をつけてないから、俺のをどうぞ、八木さん。桜さんのはあげません」
状況を理解した社員たちが、「ええっ」「うそっ」と声をあげ、ラウンジの騒ぎがさらに一段階ヒートアップする。
「咲さんの彼って、遠距離じゃなかったんですか?」
杏奈ちゃんが驚いた顔で聞いてくる。返答に迷っていると、颯真さんが振り返って穏やかに言った。
「その遠距離の彼はもういません。今は、僕がそのポジションにいます」
さらに大きな歓声と、口笛と、拍手が湧き起こる。私は両手で顔を隠すしかなかった。
「結城さん、いつの間にそんなキラーワード習得したのかねぇ」
美玲が笑いながらつぶやく。
八木さんは、颯真さんのお弁当箱から里芋を一つ摘んで口に入れると、満足そうに笑ってラウンジをあとにした。
* * *
お母さんの精密検査は、無事に終わった。
結果は「古い炎症の跡」で、今は完全に治癒済み。お医者さんからも「まったく問題ありません」とのお墨付きをもらえた。
そして今日は──颯真さんに車を出してもらって、実家にこたつを取りに来ている。
「……まだ手をつけてないから、どうぞ」
そう言った瞬間、颯真さんが慌てて遮った。
「いや、俺もまだ箸をつけてないから、俺のをどうぞ、八木さん。桜さんのはあげません」
状況を理解した社員たちが、「ええっ」「うそっ」と声をあげ、ラウンジの騒ぎがさらに一段階ヒートアップする。
「咲さんの彼って、遠距離じゃなかったんですか?」
杏奈ちゃんが驚いた顔で聞いてくる。返答に迷っていると、颯真さんが振り返って穏やかに言った。
「その遠距離の彼はもういません。今は、僕がそのポジションにいます」
さらに大きな歓声と、口笛と、拍手が湧き起こる。私は両手で顔を隠すしかなかった。
「結城さん、いつの間にそんなキラーワード習得したのかねぇ」
美玲が笑いながらつぶやく。
八木さんは、颯真さんのお弁当箱から里芋を一つ摘んで口に入れると、満足そうに笑ってラウンジをあとにした。
* * *
お母さんの精密検査は、無事に終わった。
結果は「古い炎症の跡」で、今は完全に治癒済み。お医者さんからも「まったく問題ありません」とのお墨付きをもらえた。
そして今日は──颯真さんに車を出してもらって、実家にこたつを取りに来ている。
