「で、結城と付き合ってるの?」

 お弁当の包みを広げていた手が一瞬止まる。

「……はい」

 返事をしながら、視線を落とす。彼の顔を見るのが、ほんの少し怖かった。
 八木さんは、一瞬だけ目を伏せた。けれど次の瞬間には、いつもの柔らかな笑みを浮かべていた。

「安心して。僕、そういうの引きずるタイプじゃないから。むしろ、あのとき言えたこと、ちょっと誇らしく思ってる」

 それから、テーブルの上で指を組みながら言った。

「で、公表するの? 最近、結城の人気すごいよ。なんか知らないうちに、俺の天下が脅かされてる」

 私はちょっと照れながら答えた

「……隠す必要はないよね、って話してます」

「なるほど」

 八木さんはにやっと笑うと、コーヒーの紙カップを掲げて軽くウィンクをした。

「じゃあ、仲良くな。──今度、煮物、分けてくれよ」

 八木さんと入れ替わるように、テイクアウトのフードパックを持った美玲が現れた。
 私の顔を見るなり、優しい笑みを浮かべる。

「……咲、すごくいい顔してる。なんかあった?」

 私は笑って、開いたフードパックの蓋に、煮物のお裾分けを入れてあげた。