氷壁エリートの夜の顔

* * *

 ビルを出ると、街はすっかり夜の帳に包まれていた。
 張り詰めていた緊張が解けて、私は自然と颯真さんの腕にもたれかかる。

「咲……大丈夫?」

「うん。でも──やっぱり、ひとりじゃ何もできなかった」

 彼が、そっと私の手を握ってくれる。

「全部ひとりでやってきた人が、言うセリフじゃないよ。咲は、十分すぎるくらい頑張ってきた。でも──」

 彼の唇が、そっと私の手の甲に触れる。

「これからは、俺を頼って。……そうしてくれたら嬉しい」

 その言葉に、胸があたたかくなるのを感じた。

「……今夜、うちに来ない?」

 突然の誘いに顔を上げると、彼は少し照れたような笑顔を浮かべていた。

「ずっと気を張ってただろ。ご飯、何か作るから……休んで。俺のそばで」

 そう言いながら、彼は小さく咳払いをして、視線を逸らす。

「今日は、何もしないって約束するから」

 私はそっと、彼の手を握り返した。

「颯真さん……むしろ、何かしてくれると嬉しい」

 自分でも信じられないくらい、素直な言葉だった。

 彼の瞳が一瞬だけ揺れて──すぐに優しい笑顔に変わる。
 けれどその笑みには、息を呑むほどの熱が宿っていて──胸の奥が、小さく疼いた。