氷壁エリートの夜の顔

 鼻先で笑いながら、彼は目を細める。

「まあ……そうか。今さら『パパ』なんて通じる歳じゃないよな。けど16年も前の話で、今になって金を要求しに来るとはな」

 ポケットに手を突っ込み、肩をすくめて続ける。

「離婚は成立したし、お前の母親も何も言わなかった。俺はもう、とっくに終わった話だと思ってたよ」

「16年間、一度も振り返らなかったくせに──よく言えますね」

 自分でも驚くほど、声は静かだった。

「離婚したからって、親でなくなるわけじゃない。あなたが責任を果たさなかった事実は、帳消しにはなりません」

 私は一歩、彼に近づいた。

「母は、たったひとりで私たちを育てました。生活費も、学費も──全部、自分でなんとかして。私は学校とバイトを掛け持ちして、帰ってからは家事……そんな日々を、ずっと繰り返してきたんです」

 私は息を深く吸って、視線をまっすぐに東條氏にぶつけた。

「私は、無心しに来たんじゃない。請求しに来たんです。あなたがずっと、見ないふりをしてきた責任を」

 東條氏が眉をひそめ、口を開こうとしたそのとき──颯真さんが、一歩前に出た。