氷壁エリートの夜の顔

 彼は私の姿を認めると、満面の笑みを浮かべる。

「咲! 会いに来てくれたのか。綺麗になったなぁ……本当に、びっくりしたよ。いやあ、嬉しいな」

 思わず一歩、後ずさった。胸の奥がざわざわと波立ってくるようだ。

「お前にずっと会いたかったんだよ。パパが有名人になって、お前も誇らしいだろ?」

 その言葉に、はっきりとした嫌悪感がこみ上げた。

「私は……あなたが懐かしくて来たわけじゃありません」

 そう告げると、彼は子どもをなだめるような口調で首を傾げた。

「まあまあ、そんなに怒るなよ」

 そして、何を思いついたのか、急に値踏みするような眼差しに変わった。

「……本当に綺麗になったな。親子対談とかで誌面を飾ったら、話題になるかもしれない。ちょうど今日、ビジネス誌の取材が入ってるんだ。編集長に話してみようか?」

 その瞬間、長年胸の奥に押し込めていた怒りが、恐怖を越えて声になった。

「東條さん。私は……あなたの責任を確認しに来たんです。弟と妹の養育費を、払ってください」

 その言葉を聞いて、彼はわざとらしくため息をついた。

「……金の話か。やっぱり無心しに来たんだな」