氷壁エリートの夜の顔

 喉の奥が締めつけられて、言葉が途切れそうになる。
 結城さんは私を見つめたまま、静かに言った。

「なぜって──東條氏は、あなたと双子の父親だからです」

 その言葉に、息が凍りついた。
 彼の目を直視できなくて、私は顔を逸らす。

 彼の手が肩に手が触れ、私は思わず身をよじって逃れた。

「桜さん」

「嫌です! あの人とは、もう関わりたくない!」

 俯いたまま、どうにか声を絞り出した。

「16年前の──あの雷の夜、私はあの人と、他人になったんです!」

 忘れたはずの記憶が、雷鳴を伴って蘇る。
 家を壊し、母を罵倒し、すべてを投げ捨てて去っていった男の姿。

「双子が生まれても、一度も顔を見にこなかった。慰謝料も、養育費も払わずに……。私たちが、どんな思いで生きてきたかなんて知らないまま、あの人はメディアでもてはやされて……」

 喉の奥が焼けるように熱い。それでも、私は結城さんを見つめた。

「だから今さら、責任を取れなんて言いたくない。もう関わりたくない。……それだけです」

 言葉が終わったあとの沈黙が、かえって胸を締めつける。
 俯いたまま、私は拳をぎゅっと握りしめた。