「……そういう強さに、惹かれたんだ」

「古美多で、ね」

 絢音の言葉に、思わず顔を上げた。

「なんでそれを……」

 彼女は少しだけ悔しそうに笑い、自嘲気味に笑った。

「前に、あなたをつけさせてもらったの。自分でも、らしくないと思ったわ」

 そして、テーブルに肘をつき、鋭い目でこちらを見る。

「──桜咲って、一度聞いたら忘れられない名前よね。私も覚えてたの。前職の出版社にいたときから」

 喉の奥が、わずかに詰まるのを感じた。

 桜さんを、知ってた?

 絢音は、ゆっくりと姿勢を正す。
 そして、こちらに視線を合わせたまま、静かに言った。

「私はこれから独り言を言うから──ちゃんと聞き耳を立ててね」

 その声音には、張りつめた熱があった。
 これから何か大事なことが語られる気配が、静かに漂っている。

 そして彼女は、俺から目を逸らさずに口を開く。

「……桜咲が、知られたくないと思っている話よ」