氷壁エリートの夜の顔

* * *

 糸がもつれている──そんな感覚だった。一つずつ、丁寧に解いていくしかない。

 俺から絢音に連絡を入れたのは、これが初めてだった。

 大学時代、同じゼミに所属してはいたが、特別親しいわけではなかった。
 授業が英語だったため、全員が名前で呼び合っていた──その程度の関係だ。

 それから数年経って、俺の働く会社に、彼女がヘッドハントで転職してきた。
 偶然の再会だったが、あくまで仕事上の接点にとどまっていた。

 会社近くのカフェでこうして会うことすら、以前の俺ならためらっただろう。
 でももう、気にしている場合じゃなかった。

 絢音は、少し緊張した面持ちでカフェに現れた。
 俺のメッセージには「話がある」としか書いていなかったことに、今さら気づいた。
 誤解を招くかもしれないとは思ったが──彼女は、誤解などしていなかった。