そうして働き始めて、もうすぐ2年になる。繁忙期や出張の時にはシフトを調整してくれるし、スタッフも常連さんもあたたかくて、私はとても恵まれていると思う。

「今日のイカと里芋の煮物、すっごい美味しかった。味の一体感が神がかってた」

 空いたお皿を下げに行くと、カウンター席の常連、祐介(ゆうすけ)くんが満足そうに言った。

 彼は誰とでもすぐに打ち解けるムードメーカーで、気づけば場の真ん中にいて、周囲を和ませているような人だ。
 たぶん、年齢も私とあまり変わらない。もしかしたら、少し年下かもしれない。
 それなのに、人との距離の詰め方も、空気の読み方も、私なんかよりずっと上手だ。

「ふふ、秘密はね。みりんと少量のバター、そこにちょこっと生姜を乗せること」

 カウンターで魚を焼いていた京花さんが、にっこり笑って答える。

「なるほど、その組み合わせ、最高っすね。和食なのにワインにも合う路線」

「バターはね、最後にほんのちょっと、香りが立つくらいがベストです」

 私も思わず口を挟んだ。