氷壁エリートの夜の顔

 すかさず隣のベッドから、母より少し若い女性が顔を出した。

「そうなのよ、ゲームで言うならポーションね。点滴、どこかのギルドで売ってないかしら」

 さらに、通りかかった高校生くらいの女の子が笑いながら言う。

「え、この人、幸恵さんの娘さん? やだ、すっごい美人!」

 母は嬉しそうに答える。

「ふふ、親の顔が見たいでしょ?」

──幸恵さんとは母のことだ。
 誰とでもすぐに打ち解ける人ではあるけれど、入院して1日でここまで馴染んでいるのは、さすがに予想外だった。

 私を病室のみんなに紹介してから、母は改めて私を見て、そして優しく笑った。

「……咲の顔見たら安心した。あんた、いつも『しっかりしなきゃ』とか『ちゃんとしなきゃ』って思ってるでしょ? 本当はもっと、甘えさせてあげたかったんだけど……ごめんね」

 私は笑って返す。

「なに言ってるの、お母さん。いっぱい甘えたよ。いつも忙しいのに、絵本読んでくれたし、誕生日にはホットケーキ焼いてくれたりしたじゃない」