氷壁エリートの夜の顔

* * *

 翌朝、目が覚めると、結城さんからDMが届いていた。

『社内チャット拝見しました。サポートが必要であれば、お知らせください。』

 昔の私なら、ただの業務連絡として受け取っていただろう。
 でも今は、この人の優しさに気づけるようになっていた。

 それでも──それに甘えたら、きっともう戻れない気がした。

「ご心配ありがとうございます」とだけ打ち込んで、送信ボタンを押した。
 それ以上の言葉は、どうしても打てなかった。

 会社の仕事は、「ハード」ではなく「タフ」。
 だけど、翌週からの私は、間違いなくハードモードに突入していた。
 つまり、人生は「ハード」で「タフ」。──ほんと、笑えない。

 自宅から実家までは、電車とバスで片道およそ一時間半。
 高校生の双子は思った以上にしっかりしていて、家のこともある程度こなしてくれていたけれど、母が入院している間はどうしても心配で、私は週に数回は様子を見に実家へ通った。