八木さんの視線が、祐介くんから私に移る。

──ばれたか。

「実は、そうなんです。でも、結城さんはもう来ないと思います」

「……なんで? コーヒー柿ようかん、やっとできたのに」

 怪訝そうな顔をして、祐介くんが尋ねてくる。

 私は、少しだけ口角を引き上げて、最高の作り笑いで答えた。

「それがね、結城さん、彼女ができたらしいの。八木さんと同じ部署の、すっごい美人」

 自分でもよくできたなと思うほど、感情を抑えた声だった。
 少し眉をひそめた祐介くんの視線から逃れるように、手元の湯飲みに視線を落としたとき──

「──それ、誰から聞いたの?」

 背後から、不意に声がした。低くて、けれどはっきりとした響きだった。
 一瞬、体が強張る。

 ゆっくりと顔を上げると、そこには結城さんが立っていた。

「颯真くん!」

「結城!」

 カウンターのふたりが、驚きと喜びが混ざった声で同時に名を呼んだ。

──やば、聞かれた。