美玲の笑顔が凍りついた。なんだか申し訳なくなって、私は彼女の肩に手を添える。

「詳しくは、また話すよ。とりあえず私は大丈夫だから、心配しないで」

 そしてコーヒーを片手にデスクへ戻ると、杏奈ちゃんが内緒話でもするように顔を寄せてきた。

「咲さん、聞きました? 香坂絢音さんと結城さん、付き合ってるらしいですよ」

 慣らし運転のつもりが、いきなり急カーブに突っ込んだ気分だった。私は「へぇ」とだけ返す。

「香坂さんがラウンジで話してたのを、私の同期が聞いちゃったんです。土曜にデートして、そのままお泊まりだったみたいなんです!」

 その一言が、胸の真ん中に突き刺さる。

「そっか……たしかに、美男美女でお似合いだよね」

 私は、オフィス用の笑顔を貼りつけて答えた。
 杏奈ちゃんはその裏側に気づくことなく、ちょっと不満そうな表情でほおづえをついた。

「お似合いすぎて、つまらないレベルですよ。ああ、氷の王子が誰かのものになっちゃうなんて、ショックです」

「なに、杏奈ちゃん、興味ないって言ってたのに」と、私は笑いながら返す。

 こうやって、何度も何度も笑っていれば、そのうち本当に大丈夫になる。
 心の中で、そう自分に言い聞かせた。