美玲の反応はもっともだった。氷の壁を張り巡らせる結城さんと、オフィス用の笑顔を振り撒く私。美玲だけでなく、誰も気づいていないだろう。

「ふふ、分からなかったでしょう」なんて言いたい気持ちをこらえつつ、私は、彼と古美多で偶然出くわしてからの経緯を話しはじめた。

「へぇ……そんなことあるんだね。しかも、あの氷柱が笑うって……ちょっと想像つかない」

 氷柱という言い方に、私はつい笑ってしまう。
 感情の起伏が少なくて、細身でスラッとした彼は──熱いマッチョが好きな美玲からすれば、たしかに氷柱に見えるのかも。

「でもさ、リアル彼氏ができてよかったじゃん! おめでとう」

「……それが、ちょっと微妙で」

 私はピスタチオの殻を剥きながら、言いよどむ。相談したかったのは、まさにこの部分だった。

「彼氏、なのかな? 好きとか、付き合ってとか、そういう言葉は一切なかったんだけど……」

 美玲はパテを塗りかけたクラッカーを手にしたまま、私を見つめる。そして、次の瞬間、大声で笑い出した。