その声はかすれていて、わずかに震えていた。
 いつものクールな彼からは想像できないほど、余裕をなくしている声だった。

「……いい?」

 胸の奥には、ほんのわずかなためらいが残っていた。
 怖いわけじゃない。ただ、この先がただの「好き」で済まなくなることがわかっていたから。

 それでも、逃げたくなかった。もう、自分の気持ちからは。
 私は彼を見上げて、頷いた。

「結城さん、私──」

 言いかけたその言葉を、彼の唇がふさぐ。
 もう何も言わせない、というように、深く、何度も何度も、キスを繰り返す。

「大丈夫、心配しないで──」

 熱い手が、私を胸に抱きしめる。

「──咲」

 私は目を閉じた。
 躊躇する理由なんて、もう、どこにもない気がした。

 彼の指がそっと私の手を引く。
 私はただ──それに身を預けた。