氷壁エリートの夜の顔

「残念ながら、ハズレです。──今日はプリンです」

 八木さんは微笑んで言った。

「手作りプリンか。いいな、今度、僕にも作ってよ」

「誰かのために作るのは、1年に1度って決めてるんです。また来年にお会いしましょう」

 浮き立つ気持ちを隠しきれないまま、私は紙袋を手に軽く会釈する。

「了解。バレンタインあたりにリマインド送るから」

 八木さんはコーヒーを持ち上げ、にやりと笑った。

「それじゃ、お先に失礼します」

 ラウンジを出ようとしたところで、八木さんが思い出したように声をかけてきた。

「桜さんって、霞原田駅だったよね? あの辺、ノーチェックだったけど、いい店あるね」

 私はくるりと向き直って「うん、穴場でしょう」と答える。

「商店街の入口にある鉄板焼きの店とか、隠れた名店って感じだったよ。あとは……相席してくれる人を募集中」

「あのお店に目をつけるなんて、さすが八木さん。でも、ごめんなさい、私の相席枠は、一見さんお断りなんです」