氷壁エリートの夜の顔

 これが送られてきたということは……やっぱり、妄想なんかじゃないよね。

 定時になると、結城さんはすっと立ち上がった。
 その瞬間、視線が交差する。
 仕事中に目が合うことは何度もあるけれど、今日ほど長く、そして深く、視線が絡んだのは初めてだった。

──待ってる。

 そう言われた気がして、私は少し目を細める。
 妄想なんかじゃない、彼は、私のために食事を用意して、待っていてくれているのだ。

 私も退勤の準備をして、ラウンジへ向かった。
 冷蔵庫を開け、自分の名前の付箋が貼られた紙袋を取り出す。

「お疲れ、桜さん」

 後ろから声がして振り向くと、八木さんがちょうど入ってきたところだった。

「お、それ何? 手作りの何か?」

 私は思わず笑ってしまった。

「正解です。どうして分かったんですか?」

「桜さんって、なんでも手作りしそうだから。豆腐とか、マドレーヌとか、ちんすこうとか」

「八木さん、どうしてそんなに鋭いんですか? 全部、作ったことあります」

 彼は「え、マジで?」と笑いながら、エスプレッソマシンのボタンを押す。

「当たったから、一個もらえるの?」