氷壁エリートの夜の顔

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 会社での結城さんは、今日も、悔しくなるくらい完璧な「氷壁モード」だった。

 書類の確認を頼んでも、提案に目を通してもらっても、彼は感情を一切表に出さず、冷静そのもののトーンで、端的に的確に指示を返してくる。

 本当にこの人と今夜、食事の約束をしているのだろうか──そう思ってしまうほど、彼は平然としていた。

 昨日の出来事は、もしかしたら全部、私の妄想だったのかもしれない。
 彼の部屋を訪ねたら、「え、なに? 怖いんだけど」とでも言われるんじゃ……そんな不安さえ頭をよぎる。

 けれど、私のスマホには、確かに彼から送られてきた地図アプリの共有画面が残っている。
 そこに表示されているのは、うちのアパートから徒歩10分ほど、公園に面した新築のマンション。
 高層ではないが、街の景観に馴染むよう設計された、センスの良いデザイナーズマンションだった。