氷壁エリートの夜の顔

 冗談っぽく言ってみると、彼はしばらく黙って聞いていた。そして、ふっと目を伏せ、微笑んだ。

「……ローズマリーも合うかもね」

「ローズマリー柿ようかん? ……確かに面白いかも」

 ほんのり甘い柿に、ローズマリーの清涼感ある強い香りを重ねた味を想像してみる。複雑さがクセになる、大人の味になりそうだ。

「でも、それ思いつくって、結城さん──絶対料理する人ですよね。そういう食材を扱ってないと、出てこない組み合わせだし」

 彼は何も言わずに、柔らかい笑顔で私を見ていた。11月の風が彼の髪を揺らし、吹き去っていく。
 私は笑顔も言葉も忘れて、ただ見惚れていた。

「お礼、してくれるんだよね?」

 結城さんが切り出す。空気が変わったのを感じて、私は慌てて返事をする。

「はい、もちろん。ローズマリー柿ようかん、試作してみます。あ、あと思いついたんですけど、フェンネルも──」

「──一緒に食事してくれますか? 俺の家で」

 その一言に、時が止まった気がした。

「明日、19時。仕事のあと、直接来てもらって構いません。住所は後で送ります」

 そう言って、彼は踵を返した。

「……結城さん、今日、定食は?」

 私が呼びかけると、彼は振り返り、初めて──本当に柔らかい笑顔を向けてくれた。

「今から仕込みをするので、今日はやめておきます。それじゃ、また明日」